大便秘結(便秘)
概念
大便秘結とは、糞便が腸管内に停滞して4〜7日も排便がないことで、「便秘」と簡称される。古典医書中には多数の名称があり、【傷寒論】では「大便難」「脾約」「不大便」「不更衣」「陽結」「陰結」と称し、宋代の【活人書】では「大便秘」と記載し、金元時代には「虚秘」「風秘」「気秘」「熱秘」「寒秘」「湿秘」「熱燥」風燥」などに分類されている。本症と「大便艱難(排便困難)」は便が出にくいことは同じであるが、概念が異なる。「大便艱難」は排便がスムーズに出ないことを指し、隔日に1回ぐらいの排便になることもあるが、排便の周期は正常であるのに対し、便秘は数日間排便がないことをいう。なお【傷寒論】中の「大便艱難」は便秘であり、【素問:至真要大論の「大便難」および金元時代の「湿秘」は大便艱難であるから注意しなければならない。
弁証分型
@胃腸実熱の便秘
「熱秘」に相当し、「陽結」に属する。数日間便秘する・腹部膨満・腹痛・圧痛・顔面紅潮・発熱・夕方に熱が高くなる・多尿・尿が濃い・冷たいものを飲みたがる・口舌のびらん・口臭・声が濁る・呼吸が粗い・舌質は紅で乾燥・舌苔は黄膩で厚あるいは黄褐色で芒刺がある。脈は沈実あるいは滑実。
治法
開塞通閉・攻堅泄実
調胃承気湯 大承気湯 桃核承気湯 防風通聖散
A肝脾気滞の便秘
「気脾」に相当する。数日間便秘する・便意促迫するが排便しない・抑うつ感・頻回の曖気・上腹部が痞えて苦しい・脇肋部の膨満感・月経時に乳房が張る・嘔吐・咳嗽・舌苔は白膩・脈は沈あるいは弦。
治法
順気通滞・降気通便
六麿湯 赭遂攻結湯 当帰竜會丸
六磨湯《証治準縄》加味 :沈香4g 木香6g 檳榔子4g 烏薬3g 枳実3g 大黄3g 当帰5g 生地黄6g 
当帰竜會丸  :当帰・竜胆草・サンシシ・黄連・黄檗・黄ゴン・魯回ロカイ・大黄・木香・麝香
B脾肺気虚の便秘
「虚脾」に相当する。大便が硬あるいは軟・数日間の便秘・時に便意はあるが努責しても出ず汗が出て息切れする・甚だしければ呼吸促迫する・排便後に極度の疲労感がある・倦怠感・ものを言うのがおっくう。声に力がない・脱肛・寒がる・顔色が白い・口唇や爪につやがない・舌質は淡で嫩・舌苔は白薄・脈は虚弱。
治法
補益脾肺・潤腸
補中益気湯 加枳殻・白蜜 赭遂攻結湯 当帰竜會丸
C脾腎陽虚の便秘
「冷秘」に相当し、「陰結」に属する。便秘・顔色が青黒い・四肢の冷え・寒がる・温暖を好み寒冷を嫌う・尿量が多く薄い・夜間多尿・排尿後の余瀝・舌質は淡白・舌苔は白潤・脈は沈遅あるいは微渋。
治法
補益脾腎・温通寒凝
ジュヨウ潤腸丸 温脾湯 大黄附子湯
D血虚陰虚の便秘
熱病の回復期にみられる小食・便秘。あるいは産後・化膿性疾患の後・高齢者・胃熱の人などでみられる長期間の便秘・(数週にわたることもある)・排便困難・便が硬く兎糞状・るい痩・咽の乾燥・顔色につやがない・焦燥感・めまい・口唇や爪が淡白・舌質は淡あるいは紅で乾燥・脈は細あるいは細数で無力などの症候。
治法
養血潤腸(血虚の場合)
益血潤腸丸
養陰生津・潤腸通便(津虚の場合)
左帰丸 加何首烏・麻子仁
便秘について
便秘は裏証の代表的症状の一つである。便秘に表証をともなうのは「表裏同病」であり、表寒か表熱かを弁証する必要がある。表寒裏実には「疏解表寒」兼「通裏実」で、防風通聖散を用いる。寒熱往来・胸苦しい・嘔吐・悪心あるいは心窩部が痞えて硬い・胸苦しい・脈は弦で有力を呈するのも表裏同病であるが、病位が少陽・陽明にあるので、和解攻下の大柴胡湯を用いる。
文献
丹渓心法  景岳全書:秘結  張氏医通:大小府門