眠りのメカニズム

「睡眠」は昔から、栄養・運動と並んで健康を維持増進するための基本の1つとされています。しかし、変化の激しい複雑化した現代人の生活は、心身のストレスが増えて充分な睡眠をとれないのが実状です。こうした現代人の「不眠」の問題は年々深刻化してきており、欧米では3〜5人に1人が、わが国でも数人に1人がなんらかの不眠症状に悩んでいます。不眠症とは、睡眠時問が何時間以下という定義はなく、朝起きたときに寝不足感が強く、しかも本人が睡眠不足のために疲れなどの苦痛を感じている状態をいいます。本当の疲れを癒し、明日への元気を生み出すためには、睡眠の「量」だけでなく、「質」も考えなくてはなりません。しばしの不眠で悩む人はいても、不眠で生命を絶たれた人を見たことはありませんが、元気のいい活動は心地よい眠りとさわやかな目覚めが支えています。毎日気持よく眠りたいものです。

レム睡眠とノンレム睡眠

私たちは、いったん眠りにつくと、同じ深さの睡眠が続くように考えがちです。しかし、睡眠は質の異なる2つの相から成り立っています。1つは、睡眠中に眼球がすばやく動くことから名付けられたレム睡眠、もう1つは、眼球運動をともなわないノンレム睡眠と呼ばれるものです。ノンレム睡眠は、図のようにさらに浅い睡眠から深い睡眠まで4段階(S 1〜S4)に分れ、正常な人の睡眠では、ノンレム睡眠に始まり、S1→S2→S3の順にもっとも深い睡眠(S4)まで、いっきに達していきます。このノンレム睡眠が1時間半〜2時間ほど続くと、一度睡眠が浅くなり、今度は、最初のレム睡眠が現われてきます。このノンレム睡眠とレム睡眠が1つのセットになり、一晩に4〜5回繰り返すのが睡眠の一般的なパターンとされています。

からだの眠り"レム睡眠"

ところで、睡眠中に脳波や筋電図をとると、レム睡眠の時には、脳はかなり活動していますが、からだは筋肉の緊張感がなくなりグッタリしていることがわかります。つまり、レム睡眠は、からだを休める役割を果たしていると考えられ、このことから『からだの眠り』ともいわれています。夢を見るのはこの時期で、夢が記憶に残るのはレム睡眠時に脳が活動しているからだと考えられています。

脳の眠り"ノンレム睡眠"

一方、ノンレム睡眠は、脳の発達にしたがって増えるといわれ、胎児では、レム睡眠が75%と睡眠の大部分を占めていますが、新生児では50%、3〜5歳児で20%前後と、しだいにレム睡眠が少なくなり、ノンレム睡眠が多くなってきます。これは、成長につれて脳を使うことが多くなり、脳も眠りが必要になってくるためです。ノンレム睡眠は、このように脳を休める役割を担っているところから、『脳の眠り』ともいわれています。また、近年、ノンレム睡眠のもっとも深い(S4)時に成長ホルモンが分泌されることが明らかにされ、「寝る子は育つ」という諺も科学的に実証されたといえます。

不眠とは

かのナポレオンやエジソンは、1日にわずか4時間しか睡眠をとらなかったといわれていますが、反対にアインシュタインは、睡眠時間の長い人として知られています。眠りに対する欲求には、このように大きな個人差があり、睡眠時間が短くても不眠を訴えない人もいれば、長くても不眠を訴える人もいます。『不眠症』というのは、睡眠時間だけでなく、朝起きた時に『よく寝た』という爽快感がなく、昼間の社会生活や身体活動に影響が出ていることが一応の目安になっています。

不眠のタイプ

不眠は、一般に、1:入眠障害(寝つきが悪い)、2:熟眠障害(眠りが浅く、夜中に何度も目がさめる)、3:早朝覚醒(朝早く目がさめる)の3つのタイプに分けられます。2と3は同時に現われることが多いことから、最近ではこれを1つにして入眠障害と睡眠維持障害の2つに分類されることがあります。

●入眠障害

寝入りが悪く、例えば午後10時に床に就いても午前2時、3時まで寝つけないといったもので、通常30分以上を要するものを1つの目安とします。床について眠ろうとすればするほど眠れないのが特徴で、あとで述べる『神経性不眠』に多くみられます。

●熟眠障害

いったん寝ついたあと、眠りが浅く、夜中にしばしば目がさめる症状で、一晩に2?3回以上中途覚醒する場合をいいます。お年寄りの不眠や『神経性不眠』に多くみられます。

●早朝覚醒

早朝から目がさめてしまい、それ以降眠れないもので、普段の目覚めより、おおむね2時間以上早く目がさめる時をいいます。うつ病によくみられる不眠のタイプで、診断の決め手の1つになります。

不眠の原因

一方、不眠の原因となる主なものを挙げてみましょう。

●精神生理学的要因による不眠

不慣れな環境やストレスが原因で起こる一過性のものや、数週間以上続く『神経性不眠』があります。一過性のものには、身近な人の死や転職、入試など、ショッキングな出来事や生活の不安が原因となる場合があります。また、他人の家や旅行先など慣れない睡眠環境のために起こる場合もあります。

●神経性不眠

一過性の不眠が高じて、誘因となった出来事が終わっても不眠が続き、おおむね一週間以上継続するものを持続性の不眠症に分類しています。よく見られるのが『神経性不眠』で、狭義の『不眠症』という時には、多くはこの状態を指しています。この『神経性不眠』は、比較的神経質な人が必要以上に睡眠の変化を気にすることから始まる場合が多いといわれ、眠ろうと努力するあまり緊張し、いっそう眠りにくい状態をつくる傾向があります。しかし、睡眠中に脳波などを記録すると、本人の意識以上によく眠っているものです。このような時には、安易に睡眠剤を服用するのは好ましくありません。なによりも眠りに対する正しい理解をもつことが大切です。

●精神疾患にともなう不眠症

代表的なものとしては、神経症や分裂病の急性期、躁うつ病などの際にみられる睡眠障害があります。特に、うつ病では、不眠は重要な症状の1つで、その初期症状としてしばしばみられることがあります。うつ病の睡眠障害は、睡眠時間が短く、眠りも浅く、しかも覚醒しやすい不安定な眠りになることが特徴です。気分がすっきりしない、気力が出ない、またこれという病気もないのに倦怠感や身体的な愁訴が続き、それに不眠がともなう時には、早めに専門医に相談することが必要です。

快く眠るために

人は眠りを得るために多くの努力を費やしてきました。それは運動であったり、食事や薬であったりさまざまですが、それぞれの方法にはそれなりの効果があるというのも事実です。ただ「眠れない、眠れない」と悩むより、これから紹介する方法を1つ1つチェックして実行してみましょう。羊の数を数えるよりもよほど科学的かつ効果的です。

運動

運動、それも適度の運動は快い睡眠への導入剤の役割を果します。普段から肉体労働をしている場合や意識的に運動をしている人をのぞいて、サラリーマンなどの運動量は極めて少ないのです。極端な場合、歩くのは自宅のドアから車まで、またその車からオフィスのデスクまでの繰り返しといったこともあります。こんな場合、からだはちっとも疲れていないのに精神的疲労感から眠れないということが起こります。これは肉体と精神のアンバランスから起こる、『不眠』です。眠れるようにするには肉体を少し疲労させて、心身のバランスをとってやればよいのです。頭に集中した血液は、体操などの軽い運動をすることによって全身に分散され、心地よい眠りにつくことができます。但し、心臓がドキドキするような激しい運動はかえって安眠を妨げるので、散歩やストレッチ体操といったごく軽いものにとどめるべきでしょう。

自律訓練法

自律訓練法は、不眠症を治すためだけでなく、ストレスを解消することにより緊張や不安を少なくし、その結果として、生活に対するゆったりとした態度が作られ、二次的に『不眠』に効果があると考えられています。この訓練は床に仰向けになってやるのが一番よいのですが、椅子などに座ってやることもできます。まず床に仰向けになり、両足を軽く開き、楽にして、両腕はからだにつけ、手のひらが上になるように真っ直ぐに伸ばします。こうして、気分が落ちつきからだの調節ができるようになるまで、あちこちとからだを動かしてみます。下あごがだらりとし、瞼が垂れるように筋緊張をとるようにします。筋緊張がとれたら今度は、「片腕が重く感じる、もう一方の腕も重くなる。そして、両腕が重くなる」というように3回ずつ繰り返し自分にいい聞かせ、つぎに足、それに続いて腕と足を一緒に行います。すべての順番を3回ずつ練習します。さらに、一方の足、他方の足、そして両足が温かいという暗示をかけ、腕と足が両方ともとても温かいと言ってみます。同じように3回ずつ行います。つぎは、額がすっきりしていると言い、それから首や肩が重くなると言って、最後に「気持ちがゆったりしている」と3回言って終わりとします。自律訓練から普通の仕事に戻りたいときには、手をギュッと握り、足を少し動かし、背伸びをし、あくびをしてから大きな深呼吸をして目を覚ますようにします。夜ベッドでやっているときは目覚める必要がないので、そのまま自律訓練を続けていると、やがて自然に眠りに誘われるということになります。

食事

食事も睡眠と深く関係しています。1つはその成分であり、1つは摂取の量と時間です。満腹になると眠くなるのは、食べ物が胃に入ると血液は胃腸に集中するため、その他の部分、すなわち脳などの血流量が減るからです。その結果、頭がボンヤリして眠くなってしまうのです。では不眠症の治療に眠る前の食事がよいかといえば、残念なことに、そうではないのです。これは、経験者ならばよく承知していることでしょう。満腹ではなかなか寝つけない。夜になり休息時間になると、人間のからだは休息の神経である副交感神経に支配され全身の活動が低下します。しかし食事をして満腹になると、覚醒の神経である交感神経が働かざるを得なくなります。つまり、からだが日中の活動状態に戻ってしまうのです。空腹で寝つけない場合は、消化のよい食べ物を少量だけ摂ります。ヨーグルトや果物、温かいミルクにビスケットなどがいいでしょう。そして、食後30分から1時間位で寝床に入るようにします。

快眠のためには、食事量のほかに夕食の時間も重要なポイントになります。消化の悪いものを多く摂ると、早目に食事をしても就眠時にはまだ胃の中に沢山の未消化の食物が残っていて、安眠は期待できません。就眠時間を目安に夕食時間を決め、なるべく消化のよいものを摂るのが快適な眠りをもたらす夕食のとり方です。どんな食品が『不眠』によいかということもまた大切なことです。いまのところ、眠りを誘う代表的な物質は、アミノ酸の一種であるトリプトファンだと考えられています。

つまり、トリプトファンは血中から脳内に運ばれた後、セロトニンに変化し、睡眠の発現やその維持にかかわっているという学説です。セロトニンが不足した動物は『不眠』になりやすく、セロトニンの量が回復してくると、今度は起きていられなくなります。したがって、人間でも同様に睡眠にはセロトニンが必要と考えられており、トリプトファンは健康な睡眠には大切なものとされています。トリプトファンを豊冨に含んでいる食物は、ミルク、チーズ、卵、肉類や、豆腐、納豆などの大豆製品です。

また、カルシウムも神経の安定や『不眠』をやわらげる成分とされており、血液中のカルシウム値が低くなると、落着きがなくなり、イライラしてくることは実験でよくわかっています。カルシウムはヨーグルト、小魚、ノリやワカメなどの海藻類に多く含まれています。この他、ビタミンBやビタミンEなどを含む食品も、入眠を助けるよいものとされています。ただし、ほどよく摂取することがなにより大切で、多量に摂ってもすぐ不眠に効くというわけではありません。

アルコール

アルコールはだれもが考える入眠物質ですが、酒を飲めない人々にとっては入眠物質とはいいにくく、飲む人々にとっても飲む量を間違えれば、かえって興奮して眠れないということになります。だからどんな酒をどの位飲めばナイトキャップとして適当かというのは難しいものです。アルコールも麻酔薬などと同じく、飲む量によって(1)誘導期 (2)発揚期 (3)麻酔期の状態となります。誘導期と麻酔期の二つの状態では入眠薬としての効果がありますが、麻酔期に至るような深酒はレム睡眠を阻害するため、翌日目が覚めても疲れがとれないということになります。

なぜ、眠れない・眠りが浅い?高齢者の不眠の原因と改善法

一般的に睡眠の悩みは、20〜30歳代に始まり、年をとればとるほど増え、高齢者ではとくに増加するといわれています。今回は、高齢者の不眠の原因、特徴、改善法について、さっぽろ悠心の郷 ときわ病院院長 宮澤仁朗先生にお伺いしました。

5人に1人が睡眠の悩みを抱えている!?

人生のおよそ3分の1を占める「睡眠」。健やかな毎日のために睡眠がいかに大切かは、誰もが分かっていることでしょう。にもかかわらず、“眠れない”悩みを抱える人は増え続け、今や睡眠障害は国民病ともいわれるほど。「全国11の総合病院で新患の方を対象に調査を行った結果、5人に1人が睡眠について何らかの悩みを抱えていることがわかりました。これは決して少なくない数字です」と宮澤先生はおっしゃいます。また、精神科医の立場から、患者さんの睡眠の悩みを直接聞く機会が多いという先生は、「眠れない現代社会」の実態をよりリアルに感じているそうです。

睡眠障害の中で、代表的なものといえば不眠症です。不眠といっても人によって症状はさまざま。不眠症のタイプについて伺うと「大きく分けると、寝つきが悪くなる「入眠障害」、熟眠できなくなる「熟眠障害」、途中で何度も目が覚める「中途覚醒」、朝早く目が覚める「早朝覚醒」の4タイプ」とのことで、

「日本人に多いのは入眠障害で、約60%がこのタイプ。次に多いのが中途覚醒の約27%で、近年このタイプが増えています。ちなみに、症状があれば不眠症というわけではなく、日中の苦痛や集中力低下など、日常生活に影響がでてからはじめて、不眠症の診断を下します」。

高齢者の不眠は何が原因?

不眠症が増え続けるなかでも、ひときわ多いのが高齢者の不眠です。「不眠は加齢とともに増える傾向があり、特に女性は不眠症が多いですね。中高年女性に限ると2人に1人が睡眠の悩みを抱えているというデータもあるくらいです」とのこと。

「高齢者の不眠の原因といえば、まず挙げられるのが日中の活動量の低下ですが、それだけが問題ではありません。年齢を重ねれば、高血圧、糖尿病といった生活習慣病をはじめ、さまざま基礎疾患を合併するようになり、それが不眠につながるといわれています。また、精神疾患との関わりも強く、認知症、うつ病などの方も睡眠障害が認められやすいです。」

そして、要因はさまざまでも「高齢者の不眠は共通の特徴がある」そうです。それは「眠れないことへの不安、焦りが非常に強いこと」

「お年を召されるにつれ、睡眠時間が短くなっていくのはごく自然なこと。でも、若いときのように眠れないことに不安を感じ、どうしようと焦ってしまう方も多いのです」。少しでも眠れないと、不安を感じたり、焦ったり、イライラしたりして神経が高ぶり、余計に眠れなくなるという悪循環を引き起こしてしまいます。

高齢者の不眠対策に漢方薬の力を借りる

そこで漢方の出番です。「漢方薬には、イライラや不安を減らし、おだやかに眠れるよう手助けできるメリットがあり、それが高齢者の不眠対策としてポイントが高いところだと思います」と宮澤先生。

特に寝つきが悪いタイプの方におすすめとして挙げてくださったのは、『抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)』です。

「神経が高ぶってイライラしやすい方に処方される漢方で、「血」を補い、「気」「血」をめぐらせ、ストレスによる体への影響を除き、自律神経を安定させます。胃腸の弱い人も服用しやすい処方であることも高齢者向きといえるでしょう」。

「寝つけないというのは、直前までイライラや不安があり、その延長上で起きていることがほとんど。『抑肝散加陳皮半夏』を日中に飲むことによってイライラ度を下げ、眠りに導いていく効果が期待できます。実際に、不安焦燥が強く、夜眠れないという高齢者の方に処方しており、『イライラしなくなり、眠れるようになった』とお声をいただくことが度々あります」。

生活の中のちょっとした心がけも不眠対策に

もちろん、薬に頼り過ぎず、日ごろから安眠につながる生活を心がけることも大切です。普段の何気ない行動のなかに睡眠のサイクルを妨げる原因が隠れていることもあるので、一度自身の生活習慣を見直してみると良いかもしれません。

宮澤先生が教えてくださった、良質な睡眠のためのポイントは以下の5つです。

ポイント1:朝、起きたら太陽を浴びる
(太陽光を浴びると体内時計がリセットされ、夜、自然に眠くなるように睡眠リズムが整ってきます)

ポイント2:夕方以降は激しい運動を控える
(寝る時間帯になっても興奮状態が続いてしまい、目が冴えてしまいます)

ポイント3:寝る前にカフェインを摂らない
(カフェインには覚醒作用があり、寝つきが悪くなるだけでなく睡眠の質低下にもつながります)

ポイント4:テレビ、スマホは寝る1時間前まで
(脳を刺激するため、寝る直前まで見ていると眠くなりづらくなります)

ポイント5:禁煙する
(タバコに含まれるニコチンには、カフェインと同様の覚醒作用があります)

もうひとつ、昼寝をする場合は「どんなに長くても1時間以内」とのこと。「日中の午後に“うとうと20〜30分”という程度ならば一時的に脳を休ませる効果もあって良いのですが、1時間を超えると夜間の深睡眠に悪影響を与えてしまいます」。宮澤先生の病院と連携するデイケアやデイサービスでも、昼寝は必ず1時間以内に留めてもらうようお願いしているそうです。

最後に理想的な睡眠時間を尋ねると「7時間前後が理想的だと思います。長く寝るほど良いわけではなくて、睡眠のサイクルを守ることが大事です」とのこと。

眠りたいのに眠れない。そのつらさを避けたくて「今夜、眠る」ために薬を服用される方もいらっしゃるでしょう。ですが、不眠と縁を切るには、眠れない原因を取り除き、自然に眠りにつけるコンディションをつくることが不可欠。その際、心身のバランスを正常な状態に整えることを根本とする漢方薬は頼もしい味方になります。年齢を重ねながらも日々おだやかに眠り、いきいきと活動するために、上手に取り入れてみてはいかがでしょう。

睡眠は健康の土台であり、生きている限り毎日繰り返していくもの。良く眠ることは、豊かで充実した人生に紐づいているといっても過言ではありません。

不眠症の東洋医学解説

不眠は、
不寐(フビ)、不得眠(フトクミン)、不得臥(フトクガ)、目不瞑(モクフメイ)、
または失眠(シツミン)などとも呼ばれる。

【営衛との関わり】
睡眠の機序については、
営衛(エイエ・営は主に内に充満して栄養作用を有し、
衛は主に外を守る防衛作用を有する。)の運行が鍵となる。
それらの運行が順調だと 血気が盛んとなり、
肌肉が滑らかになり、気道が通じ、よく熟睡出来る。
特に衛気の運行は、
一日の内に陽経(ヨウケイ・経とは気血が通る道路)と
陰経(インケイ)を25周ずつ計50周するとされる。
日中は衛気が陽をめぐるので、精力が充実し活動力が強くなり、
夜間は陰をめぐるために睡眠に入る状態となる。

衛気が睡眠と関わることについて、
『黄帝内経霊枢』(コウテイダイケイ レイスウ)に以下の記載がある。

“衛気不得入於陰、常留於陽。
留於陽則陽気満、陽気満則陽?盛、
不得入於陰、則陰気虚、故目不瞑矣。”

訳:
衛気が陰に入れないと、常に陽に留まる。
陽に留まっていると、陽気が充満する。
陽気が満ちれば陽?脈が偏盛する。
また、衛気が陰に入れないので、陰気は虚し、
そのために安眠できなくなる
(黄帝内経霊枢 大惑論より)

“夫衛気者、昼日常行於陽、
夜行於陰、故陽気尽則臥、陰気尽則寤。”

訳:
衛気は、昼は常に陽をめぐり、夜は陰をめぐっている。
それゆえ陽気が尽きれば眠り、陰気が尽きれば目がさめる。
(黄帝内経霊枢 大惑論より)

【神との関わり】
また、不眠の原因として、
意識や情緒などの精神面の影響が考えられる。
意識、思惟(シイ・考えること、思考)、精神、情緒などは、
五臓の生理活動と密接に関係し、
五臓の機能が失調することで精神面に影響を与えることがあり、
また逆に精神的な負担や変化から五臓の生理機能に影響することがある。
このことから、相互的に影響し合う関係にあるといえる。

五蔵が蔵しているものとして以下のものがある。
「心は神(シン・意味は後述する)を蔵す」
「肺は魄(ハク・先天的な感覚、運動のような本能)を蔵す」
「肝は魂(コン・神気に従って往来する精神活動の一つ)を蔵す」
「脾は意(イ・心の中に思うこと、またはあれこれものごとを考える)を蔵す」
「腎は志(シ・思い巡らしたことを決定実行する)を蔵す」

この中でも、
心が蔵している「神」に注目したい。
「神」とは、
広義と狭義の二通りの意味があり、
広義の「神」とは、
人体の形象および顔色・眼光・言語の応答・身体の動きの状態など
いわゆる生命活動の全般的な状態を指している。
一方、狭義の「神」とは、
精神・意識・思惟(シイ・考えること、思考)活動を指している。

「神」と不眠の関係を古典の中に探ると、

“盖寐本乎?,神其主也,神安?寐,神不安?不寐”

訳:
けだし寝は陰に本づき、神はその主なり、
神安んじればすなわち寝り、神安んぜざればすなわち寝れず。
(景岳全書(ケイガクゼンショ) 雑証謨 不寝 より)

とある。

本来「神」は、血により養分を得ることで、
精神を安定させることが出来るが、
七情(シチジョウ・喜、怒、憂、思、悲、恐、驚という
7種類の情志活動)の乱れといわれる
精神的な負担が心血を消耗させることで、
「心不蔵神」(シンフゾウシン)となる。

他にも、
暴飲暴食により
胃の気(イノキ・脾と共に水穀の精微を消化、吸収する力)を損傷したり、
胆気(タンキ・表裏関係にある肝の気とともに、精神活動に関与する。
胆は決断を主る)が乱れることでイライラする、
思慮(シリョ・注意深く心を動かして考えること)が
すぎることで脾を損傷することなどが
不眠の原因になると考えられる。

詳細は以下へ続く。



以下に具体的な病因(病の原因)と病機(症状が現れる機序)を挙げていく。

実証

肝胆鬱熱(カンタンウツネツ)
実熱証である。
七情(シチジョウ・喜、怒、憂、思、悲、恐、驚という7種類の情志活動)の過度により
肝の疏泄(ソセツ・川の流れがさらさらと滞りなく流れているような状態。
主に昇降出入という気の運動を滞りなく巡らすことで、
気血を調和し、経絡を通し、臓腑や器官を正常に活動させる動きを指す。)
が失調し、
肝鬱(カンウツ・気の流れを伸びやかにして
調和させる肝気の流れが失調した状態)が続くことで
化火(カカ・外邪や?血、気滞などが
一定期間留まり続けることで詰まって熱がこもった状態)する。
また、大酒や過食などの飲食不節により湿熱が生じ、
それらが肝胆に鬱滞して化火し、
火熱が神明(シンメイ・精神、意識、思惟を指す)を
擾乱(ジョウラン・入り乱れて騒ぐこと。また秩序をかき乱すこと)して
心神不安をきたし発生する。

治法:清熱瀉火(セイネツシャカ・熱を冷まし火を瀉す)
   安神(アンシン・神を安定させる)

痰熱擾心(タンネツジョウシン)
もともと痰濁(タンダク・人体の水液代謝障害により
形成される濁りと粘りを伴う物質)が旺盛だったり、
陰虚陽亢(インキョヨウコウ・身体の精、血、津液が損耗し、
陰が陽を制することができなくなって、興奮状態となって起こる)
の体質のものが七情の刺激を受けたことによって起きることが多い。
思い悩んで七情が抑鬱されたり、
憤懣(フンマン・いきどおってもだえること)・怒り・驚き・恐れなどの感情によって
気は鬱となって停滞し、
それが長引くと火に変わって津液を焼き、痰が発生する。

治法:清熱化痰(セイネツケタン・熱を冷まし痰を除去する)
   安神(アンシン・神を安定させる)

心火亢盛(シンカコウセイ)
情志の内傷や五志(ゴシ・喜、怒、憂、思、恐の五種類の情志)の太過により
心経の火熱が勢いを増し、
経に沿って炎上して起きる病変を指す。
また心熱が小腸に移動すれば、
清濁を泌別(ヒツベツ・分別すること)する機能が低下することで
小便が渋り排尿時の痛みや、尿が赤く濁るなどの症状が現れる。
さらに、心火が肝火を引き起こすことで、
心肝火旺(シンカンカオウ・心と肝の機能において同時に障害が現れたり、
あるいはそれらの機能が亢進状態となる)となり、
不眠以外にも易怒、動悸、焦燥、頭痛、目の充血などを呈する。

治法:清心安神(セイシンアンシン・心の熱を冷まし、神を安定させる)



虚証

心脾両虚(シンピリョウキョ)
思慮過度・労倦(ロウケン 過労、精神的な負担、
不規則な生活などで体のだるさ、話すのが億劫になるといった状態)
または病気、手術や外傷、生理過多、出産、加齢などが原因で気血が不足し、
脾気虚のために気血の生化が不足して心血が補養できなくなり、心神不安となる。

治法:健脾益気(ケンピエッキ・脾気を健運し、気を補う)
   養血安神(ヨウケツアンシン・血を補い、神を安定させる)

心腎不交(シンジンフコウ)
心は腎を温め、腎は心を冷ます
この協調関係があることで、
心に熱がこもったり、腎が冷えすぎないように
常にバランスを保っている。
それらを水火既済、心腎交通という。
そのバランスが崩れると、心腎不交となり、
症状として不眠、動悸、健忘、めまい、耳鳴りなどがみられる。
治法:滋腎陰(ジジンイン・腎の陰分を潤す)
   降心火(コウシンカ・上部の心火を下降させる)
   交通心腎(コウツウシンジン・心陽を腎に下げて腎水を温め、
   腎精が蒸騰され心に上がり心陰を潤わすことで、心腎を交通させる)

心胆気虚(シンタンキキョ)
驚きや恐怖感のために胆気が損傷し、
「決断」を主る機能までが失われ、
余計に恐怖感が増幅し不眠が引き起こされる。
また心虚や肝気が虚弱することで
胆の気虚と結びつき
・びくびくする
・些細な事で驚く
・多夢
・恐怖感
・躊躇して決断ができない
といった症状が現れる。

治法:温胆益気(オンタンエッキ・胆気を温め、気を補う)
   寧心(ネイシン・心を安定させる)

胃気不和(イキフワ)
暴飲暴食などで胃の気が損傷したり、
元々の胃気が不足していることで
胃?部(イカンブ・上腹部)に食滞(ショクタイ・胃?部に飲食が停滞している状態)がおこる。
それらの食滞が胃の降下する作用を妨げ、
上逆することで不眠となる。
食滞の状態が長引き痰熱がこもることもある。

治法:和胃化滞(ワイケタイ・宿食を下降させて胃を和らげる)



●西洋医学における不眠

【不眠の症状とは】
入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害などの状態が一ヶ月以上続き、
その事から疲れが取れない、気分が悪い、集中できないといった症状が現れ、
昼間の生活や仕事に支障をきたす状態を指す。

・入眠障害:
床についてもなかなか(30分〜1時間以上)眠れない

・中途覚醒:
睡眠途中で何度も目が覚めてしまい、その後再び寝つくことが難しい

・早朝覚醒:
本来起床する時間より早く目が覚めてしまい、その後眠れなくなってしまう

・熟眠障害:
十分な睡眠時間をとったにも関わらず、眠りが浅く、ぐっすり眠った感じがしない

【原因】
・環境要因:周囲の騒音、暑さや寒さ、明るさなど
・生理的要因:時差ぼけや、交代制の勤務などで昼夜が逆転することなど
・身体的要因:病気や、それに伴う痛みなどの症状によって引き起こされる
・精神的要因:悩みや心配事、精神的なストレスなど
・生活習慣要因:過度の飲酒や喫煙、カフェインの過剰摂取、薬の副作用など

【患者数】
厚生労働省の関連HPサイトであるe-ヘルスネットによると、
『日本人を対象にした調査によれば、
5人に1人が「睡眠で休養が取れていない」、「何らかの不眠がある」』とあり、
また60歳以上の方で『約3人に1人』が睡眠に何かしらの問題を抱えている。

【治療方法】
主な治療法として、
・薬物療法
・非薬物療法
の二つが挙げられる。

・薬物療法
脳の働きを休ませて眠りへ導く
ベンゾジアゼピン系睡眠薬・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬。
脳内のメラトニン受容体に作用し
活動状態から休息状態へと切り替えることで眠りへ導くメラトニン受容体作動薬。
脳の覚醒に関与するオレキシンという脳内物質のオレキシン受容体への
結合をブロックすることで、過剰な覚醒状態を抑制する
オレキシン受容体拮抗薬などがある。
以前は、バルビツール酸系の睡眠薬が使用されていたが、
副作用が強く、現在この処方は推奨されていない。

・非薬物療法
不規則な生活習慣や、就寝前の飲食、嗜好品についての改善指導があり、
それでも効果がみられないようであれば、
高照度の光を照射することで、
ずれてしまった睡眠のリズムを正しいものに変える《高照度光療法》や、
認知行動療法のひとつである
就床時間と実際に身体が要求する睡眠時間との差を減少させることを
目的とした《睡眠制限療法》などの治療方法がある。

※厚生労働省の研究班によって、
睡眠障害を事前に防ぐための方法を12の指針としてまとめられたものが
《睡眠障害対処 12の指針》である。
主なものとして、
・同じ時刻に毎日起床
・眠くなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない
・刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法
・規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
・睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
・光の利用でよい睡眠
などがある。

不眠症で使う代表的なツボ
・神門(しんもん)
・内関(ないかん)
・百会(ひゃくえ)
・安眠(あんみん)
・失眠(しつみん)
・健脳(けんのう)
など。

このツボはW心Wとつながっています。東洋医学では、W心Wは血液を全身に送り出すだけでなく、精神面をコントロールする中心的な役割を担っているとされます。

[探し方]

手首の内側、折れ曲がるシワの線上にあります。小指側にあるすじの親指寄り

 [ 押し方]

人差し指で押しにくい場所。親指で手首の下から支えるようにすると安定します。

内関は、東洋医学で言う心包(W心Wを守っているもの)とつながっていて、胸から胃にかけての痛みや不快感を治す効果があります。

例えば、乗り物酔いやつわりなどでムカムカする場合、このツボをギューッと押せば割とすぐに楽になることも。心の悩み、動悸などにも使われるツボです。

【効能】
陽気を補助、低下した*気の生理機能を増強する
  1. @耳鳴り、めまい、頭痛、視力低下、目の充血、鼻づまり、頭痛、抜け毛など頭部の症状
  2. A胃下垂や痔といった消化器の症状、子宮下垂、腎下垂、筋肉などのたるみに関連する症状
  3. B高血圧など循環器系の症状
  4. C神経や精神的症状(ストレスや、頭を使いすぎて疲れを感じた時〜パーキンソンなどの難病やうつ病にも幅広く使えます。)
気の生理機能は、人が生きる上で必要な生理機能のことを指す。
具体的に言えば、
  1. @身体の成長と発育の促進、血行・水分代謝などを推し進める
  2. A体温維持、身体を温める
  3. B免疫力を向上させる
  4. C臓器下垂など下に落ちる症状を防ぐ、出血や大量発汗など体液の異常流失を防ぐ
  5. D新陳代謝の状態維持と促進
  6. E身体を栄養する など
「耳の後ろ側の骨の出っ張りのから指1本分ほど下のくぼみにあります。文字通り、眠りにいざなうツボです。パソコン仕事ではこのツボの辺りが凝ってくるので、それを緩める効果もあります」
場所
かかとの真ん中ある不眠症の特効ツボが失眠穴です。
効能
押しもむだけでなく、こすったり、こぶしでたたいているうちにおだやかな気持ちになるという効果があります。
押し方
押しもみ、こする、たたく
「健脳」は首の骨の両側と頭蓋骨(とうがいこつ)の下縁部の接点で毛の生え際あたりにあります。 このツボは薄毛予防にも良いとされています。 「百会」は耳の上端を結んだ線と顔の正中線の交点でわずかにくぼんだところにあります。