中医診断と治療
概念
全身の浮腫で、圧すると陥凹するものを指す。【内径】では、浮腫を「水」「水腫」と称し、「風水」石水」「湧水」などの症候に分けている。【金匱要略】では水気と称して専篇を設け、「風水」皮水」「正水」「石水」などに分類している。元代の朱丹渓は「陽水」と「陰水」に分類し、後世もこれにならっている。体表部の浮腫には「水腫」と「気腫」の別があり、「水腫」は圧すると陥凹してもとに戻りにくいのに対し、「気腫」は圧痕を残さない。本項には「気腫」は含めない。このほか、下肢の浮腫は「足腫」の項で、婦人の「妊娠腫張」「産後浮腫」なども別項を設けて述べる
弁証分型
@風寒犯肺の浮腫
まず、目瞼が張れて、すみやかに四肢から全身に浮腫が生じ、悪寒・発熱・関節痛・尿量減少・舌苔が薄白・脈が浮緊などを呈する。
治法
疏解風寒・宣肺利水
麻黄加朮湯 小青竜湯
A風熱犯肺の浮腫
突然に眼瞼と顔面に浮腫が生じ、発熱・軽度の悪風・咳嗽・喉の発赤腫脹と疼痛・尿が濃い・舌の辺突が紅・舌苔が薄黄・脈が浮数などを呈する。
治法
辛涼宣肺・清熱利水
麻黄連翹赤小豆湯 越婢加朮湯
B水湿困脾の浮腫
慢性に生じる経過の長い全身浮腫で、四肢に初発して腹部・下肢に顕著であり、身体が重だるい・頭が重い・胸苦しい・悪心・味がない・尿量が少なく色がうすい・舌苔は白膩・脈は沈緩あるいは沈遅などを呈する。
治法
温化水湿・通陽利水
胃苓湯 五皮飲 五苓散
C脾陽虚の浮腫
下半身に顕著な浮腫があり、圧すると陥凹してなかなかもとにもどらず、反復して慢性に経過し、倦怠疲労感・四肢の冷え・食欲不振・泥状〜水様便・尿量が少なく色がうすい・舌質が淡・舌苔が白で水滑・脈が沈緩などを呈する。
治法
温運脾陽・化湿利水
実脾飲 真武湯
D腎陽虚の浮腫
全身の浮腫で、下半身から始まることが多く、腰以下に顕著で両足の内踝部にもっとも強く、腰や膝が重だるく無力・寒がる・四肢の冷え・陰嚢が冷える・尿色はうすく量が少ない・舌質は淡で胖大・舌苔は薄白・脈は沈細弱などをともなう。
治法
温暖腎陽・化気行水
牛車腎気丸
E気血両虚の浮腫
慢性に生じる顔面・四肢の浮腫で、顔色が蒼白あるいは委黄・口唇が淡白・頭のふらつき・動悸・息切れ・食欲不振・倦怠感・元気がない・舌質が淡・少苔・脈が虚細で無力などを呈する。
治法
益気補血
帰脾湯
浮腫について
浮腫は水液代謝の失調によって生じる。人体の水液代謝では、肺気の宣発と粛降・脾気の昇降転輸・腎陽の蒸化・膀胱の気化・三焦の通暢などの機能が主要な役割を果たしている。肺気の宣・降の失調で水道が不通になったときには、腰以上の浮腫がみられる。脾気の転輸・運化の失調や腎の気化機能の失調では、下焦の水道が不通になって水が舌に停滞し、腰以下の浮腫が生じる。一般に発病が急で浮腫上部に偏するものは、熱証・実証に属し、「陽水」と呼ばれる。一方、発病が緩慢で経過が長く、浮腫が下部に偏するものは、寒証・虚証に属し、「陰水」と呼ばれる。【証治要訣】に「遍身腫れ、煩渇し、小便は赤渋し、大便は多く閉するは、これ陽水に属す。「遍身腫れ、煩渇せず、大便は自調あるいは溏瀉し、小便は少なきといえども赤渋せざるは、これを陰水に属す」とある通りである。ただし実際には、虚実夾雑が多いので、症状の特徴をもとに詳細に弁別する必要がある。
文献  【金匱要略:水気病脈証並治】【丹渓心法:水腫】